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「ふぅん。なるほどねぇ…」
彼の説明を聞き終えた私…綾波静子は声を漏らした。
「でも、そのD棟…
取り壊しちゃうなんて…何か、もったいない話ねぇ…」
「まあ…仕方がないですよ」
私は…区画図に載っているD棟の立地…他の住宅群からポツンと一軒だけ離れて建っている、静かに暮らせそうなその環境に物凄く魅力を感じていた。
今、住んでいる市街地の家は周りが騒音だらけで、本当に嫌気が差している。
毎日毎日…騒音でモヤモヤとした気持ちを抱えながら、生活をしているのだ。
あんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、老後を過ごして行くなんて…
それだけは、絶対に嫌だ!
だから…少しでも、少しでも他の棟から離れた静かな棟で老後を過ごしたい…。
私は、思い切って木村氏にこう言ってみた。
「ねぇ、木村さん?
どうかしら。試しに、私がそのD棟に住んでみるというのは」
「へっ?」
彼が、すっとんきょうな声をあげる。
私は、言葉を続けた。
「だって、そのD棟に現れる霊たちっていうのは『ただ、そこを通り抜けているだけ』なんでしょ?
それって、言い方を変えると霊感が無い人間にとっては全くの『無害』って事になるんじゃない?
実は私、全く霊感が無いのよ。これまでの人生、心霊体験をした事なんか一度も無いの」
「いや、でも…」
木村氏が、言葉を濁した。
「なら…木村さん。こういうのは、どうかしら。
まずは一ヶ月間、私がそのD棟で生活する。それで何も無ければ、私は正式にD棟の入居契約をして建物の取り壊しも中止するというのは。
私、本当に霊感ゼロなんだし…問題は、無いんじゃない?」
「うぅん…」
「ね、良いでしょ?」
そんな訳で…
私は、渋る木村氏を強引に説き伏せて、そのD棟にまずは一ヶ月間、住んでみる事となったのだった。
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