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それから…
何ヵ月…
いや、何年の月日が…
流れただろうか……。
実は…私、綾波静子は…
今も、ここ…D棟で暮らし続けている…。
思えば…
霊たちの謝罪の『本当の意味』を理解した、あの日…。
食べても、食べても…
痩せて行く…。
『ゴメンナサイネェ…』『ゴメンヨォ…』『申シ訳ナイッ…』『済マンナァ…』『スイマセンデス…』
「そ、そういう意味だったのね!
あの霊たちは…毎晩毎晩…少しずつ少しずつ…私の『魂』を吸い取り続けていて…その事を私に謝罪していたのね!
私…このまま、この家に住み続けてたら…
そのうち、死んでしまうかもしれないわ!」
すぐさま、私は!
木村氏に電話してD棟の入居契約を解約しようとした!
しかし…
である。
不意に…私の頭の中に…
これまで過ごした、D棟での静かな安らぎの日々が甦って来たのである。
騒音でモヤモヤとした気持ちとは、無縁の…美しい自然を満喫しながら散策した、楽しい日々…。
そして、大好きなビールを飲みながら大好きな詩を書いた、満ち足りた日々…。
この家で過ごした一ヶ月間は…
私がずっと長年、追い求めて来た…まさに『理想の老後生活』…。
あの…以前、住んでいた騒音だらけの市街地の家に戻る事を考えると…
本当に吐き気がする!
あんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、老後を過ごして行くなんて…
それだけは、絶対に嫌だ!
かと、言って…
すっかり痩せ細ってしまった今の私には…
今更、別の新居を一から探す気力なんて、もう残っていない…。
そう…よね…。
こんな静かな場所で老後を過ごせるのなら…
このまま、この家で人生を終わらせても…
悪くは、ないかしれないわ…。
そう考えた私は、木村氏に電話をして、結局はD棟の正式な入居契約を結んだのだった。
と、いう訳で…
こうして今も私は、ここ…D棟で暮らし続けている。
この家で大好きなビールを飲みながら詩を書く毎日を送っている。
相変わらず、いくら食べても飲んでも痩せ細ったままだけど…
痛みも苦痛も全く感じない。
モヤモヤとした気持ちとは、無縁の生活…。
本当に満ち足りた…安らぎの日々…。
だから、今の私は…
あれから何ヵ月…いや、何年の月日が流れたかなんて…
もうそんな事、どうだって良いのだ。
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