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郊外にポツンと建つ…
ボロボロの木造の一軒家…。
近所から、『ゴミ屋敷』と呼ばれていた、その家には…
かつて、一人の老婆が住んでいた…。
彼女の名前は…
綾波静子……。
「いやぁ…。
綾波様が、あの家で天寿を全うして下さったお陰で…D棟に幽霊が出るっていう噂は、今じゃすっかり聞かなくなったなぁ」
綾波静子の葬儀の帰り道…
不動産会社の木村氏は一人、呟いた。
「さてと…」
と、そこで彼は更に考え込む。
今や無人になった、あのD棟…これから、どうしようか。
もう、すっかりボロボロに老朽化してしまっているし…やっぱり、取り壊そうか…。
と、その時…。
「いや。待てよ…」
木村氏の中で『ある考え』が頭をもたげた。
やっぱり、D棟は取り壊さずに…
逆に新しくリフォームして引き続き、売りに出そう…。
そして…
契約金額を…
他の棟の半額にするのだ!
無論、お客様がたはその安価の理由を知りたがるだろう。
そこで…
「実は…この棟は、霊道を塞いで建っているのです」
と、あえて種明かしをするのだ。
今のご時世…
逆にそういった物件に住みたがる物好きなお客様も…結構、いらっしゃるものだ。
加えて…。
「お客様!!
このD棟…霊道を塞いで建っていると言いましても…ご心配は、無用ですよ!
実は、この物件…霊感が無い方にとりましては、全くの無害なんですよ!
何しろ、霊たちは『ただの通り道として、D棟を通り抜けているだけ』なんですから!」
と、説明するのは…どうだろうか。
そう…。
実際…生前の綾波様も、そうおっしゃっていたではないか。
「D棟に現れる霊たちっていうのは『ただ、そこを通り抜けているだけ』なんでしょ?
それって、言い方を変えると霊感が無い人間にとっては全くの『無害』って事になるんじゃない?」と…。
現に…
あのD棟にお住いになった綾波様…。
痩せ細った印象だったとは言え、あの家で何事も無く、ご無事に…
本当に、安らかなご様子で…天寿を全うされたではないか……。
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