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オンラインでは僕らは透明人間、じゃない
クラスメートの後藤田直が僕のスマホの画面を覗き込み、言った。
「立花氏。ついにやるぞ?」
そんな後藤田の声に僕はコクリと頷いてみせた。
僕は自分のスマホの画面をじっと見る。画面上を指先で狙いを定めた。
いま、僕の人差し指には、世界を燃え上がらせる力が宿っている。
その人差し指でスマホの画面をつつけば、世界が一変するのだ。
僕は現実の自分の姿が見えないネット上からいじめっ子の石川琢磨に反撃しようと企てた。
その企て、手の内とは、こうだ。
まず、僕は自分自身をネット上で炎上させる。
炎上とは――ネット上で非常識な行動や不祥事を起こした人間が、責め立て、とがめる声に(全国の見ず知らずの人たちから!)晒されることだ。
僕は誹謗中傷を集めるような投稿をわざと巨大掲示板に送り込み、
@名無しさん
<こんなことするやつはどこの誰だ?>
@名無しさん
<本名まだ?>
@名無しさん
<お前らの出番だぞ>
――で、自分の正体を暴いてもらう。
そこから、
@名無しさん
<こいつ、○○高校の○○>
@名無しさん
<知ってる。いじめられてるやつじゃんw>
@名無しさん
<ふぁあw誰だよ、このバカをいじめてるさらにアホなの?w>
――で、石川琢磨からのいじめを世の中に晒してやるつもりだった。
僕は自己中心的な行動でネット炎上を生み出し、それに石川琢磨を巻き込んでやろうと企んだのだ。
あとはスマホの画面を指先でつついてみればいい。
押すんだ――!
「できない!」
果たせるかな、いいや、そんな恐ろしい企みは、実行には移せなかった。
「立花氏。道連れの炎上戦法。なんて恐ろしいことを考えつくんだ。でも、それほどまでに石川琢磨からのいじめは……ねちこいからね。生半可なやり方では返り討ちにあうぞ」
「だからといって、道連れの炎上戦法なんてのが正しいやり方なのだろうか?」
僕は後藤田に問うた。
しかし、彼をこの場に呼んだのは自分がやることの正当性を確認するためではなかった。いじめへの反撃をひとりで考えていたら、こんな恐ろしい企てしか思いつかなかった。だから、もっといい選択肢を、同じいじめられっ子の後藤田との会話のなかから見つけ出したかった。
「うーん、どうだろうね。怖いならやめればいいと思うぞ。目立つな、だぞ。ささやかな生き方をしていたほうが僕らには似合っているぞ」
「別に、怖気づいたわけじゃないさ。無傷ではすまないのは覚悟の上。いじめられ続けてきた復讐を――! と言うのならば、人を呪わば穴二つ、なのだからね」
でも……人を呪わば穴二つなんて行動が正解なのか?
他に選択肢がないのか?
「ネット上では相手の現実の姿は見えない。同じ場所にいてもお互い何も言わなければ透明人間みたいなものだぞ。相手を道連れにするなんて考えなくていいぞ。闇討ちするにはいいと思うぞ」
と後藤田は静かに言った。
「ほら見て、彼だぞ。今日もあの交流アプリにいるぞ」
後藤田は自分のスマホの画面を僕に見せた。
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