オンラインでの裸の王様

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

オンラインでの裸の王様

 SNSの交流アプリ上に、現在オンラインのマークが点る“彼”がいた。  “彼”のネット上での名前はTAKUMA――画面の向こう側にいる現実世界のTAKUMAが、どういう人であるか、僕らはよく知っていた。  TAKUMAの本名は石川琢磨。僕らをいじめるクラスメートだ。  僕と後藤田が今見ているこの交流アプリは、クラスメートたちが学校での話題や情報を交換するために、クラスメートみんなでインストールしようって決めたものだった。  しかし――、今でもこの交流アプリを起動しているのは、クラスの中で三人しか残っていなかった  僕と後藤田と石川琢磨の三人だけ。  他のクラスメートたちはこの交流アプリを自分たちのスマホから削除しているのだろう。僕ら三人以外のクラスメートの誰かがログインしてきてオンライン状態になったことは、それがいつだったか、思い出せなかった。  そもそも、この交流アプリをインストールしようと最初に言い出したのは石川琢磨だった。  石川琢磨はクラスの中心的人物だった。もっとわかりやすい言葉では――彼は、クラスの王様だった。  石川琢磨はクラスメートの誰よりも声が大きく、自分よりも力が弱いクラスメートたちを言葉でバカにしたり、態度でからかったり(本人は面白半分だったようだが)――つまり、いじめていた。  そんなノリというか雰囲気を、石川琢磨はTAKUMAと名乗ってネット上の交流アプリのなかにまで持ち込んだのだから、他のクラスメートたちは早々に嫌気が差して、さっさとこの交流アプリ上から立ち去ってしまったのだ。  僕はまじまじ後藤田のスマホの画面を見た。  交流アプリ上で、現在オンラインのTAKUMAの名前を見ていたら、 「現実では王様みたいな石川琢磨でも、ネット上ではTAKUMAって存在でさ、なんだか記号だけのちっぽけな存在に思えてきたわ」  ああ。そうだから、他のクラスメートたちは簡単にこの交流アプリから去って行ったんだな、と僕は気づいた。 「現実世界では石川琢磨は王様に見えても、ネットの世界のTAKUMAは裸の王様なんだよ」  と言ってる僕がため息出てきた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!