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「もう!葵なんて知らない!」
私は帰りの車の中、頬を膨らませて葵を怒る。
「すみません、お嬢。」
謝る葵はニコニコしていて、謝る気が微塵も感じられない。
「私の高二のスタート台無しなんですけど!」
「失礼ですが、お嬢はもともと友達もできませんし、スタートもクソもないように思うのですが。」
「うるさい!」
そんな掛け合いは日常で、運転手の若狭はげんなりとした顔をしている。
私は、張り合うのももう無駄だと思い、窓の外を眺めた。
家まではあと少し。
というか、そんなに遠くないのに、わざわざ車で送り迎えというのも変に思う。
けど、お父さんもお母さんも「詩織はこんなに可愛いんだから、狙われたら大変」という思考の持ち主…俗に言う親バカなので、歩きで登校なんてのは夢のまた夢。
そもそも、私は可愛いから皆に見られるんじゃなくて、髪と目の色が珍しいから見られているのに…。
どうやらそれが伝わらないらしい。
ただ、まぁ…。
自分で言うのもなんだが、制服はよく似合ってると思う。黒のセーラーにプリーツスカート。そして、燃えるように真っ赤なタイ。結構気に入っている。
…にしても高校二年生、か。
「ねぇ、葵。」
「なんでしょう?」
「…高二もよろしくね。」
私の言葉に、ぶはっ!と葵は吹き出す。
「…なんで笑うわけ?」
「いや、だって…!お嬢らしくないっていうか…!」
「いいじゃん!私だってセンチメンタルな時くらいありますー!」
なんだか私がバカみたいじゃないか。絶対、葵の顔なんて見てやんない!
「…高二だけじゃなく、死ぬまでお供しますよ。お嬢。」
目頭の笑い涙を拭っているのであろう葵の顔は窓越しにはよく見えなかった。
「あ、そうだ。旦那様が呼んでましたよ。言いたいことがあるから部屋に来い、と。」
運転席の若狭はバックミラー越しに言う。
「あー、うん。わかった。」
きっと、高校生活はどんなだ、とか、写真撮らないか、そんな感じだろう。
私はやれやれとため息をついた。
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