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秋
時間は残酷に進む。どんどん進む。あんなに暑かった日が嘘のように、肌寒くなっていた。
ある朝、子猫が片目を開けにくそうにしていた。
どうやら、風邪を引いているようだ。
まだ触らせてくれないので、目の様子を写真に撮って、動物病院へ薬をもらいにいく。
キャットフードに薬を混ぜると、一週間ほどで治った。
だが、今度は兄弟猫に移る。また動物病院へ薬をもらいにいく。
そんなことを繰り返してうちに、いつしか母猫が子猫たちを威嚇するようになっていた。近寄らせまいとしている。
姿も以前に比べて、あまり見かけないようになっていった。
ネットで仕入れた情報より早い子離れに、慌てて不妊去勢手術の予約を取る。
手術当日ーー。
撒き餌をして、一匹ずつ捕獲器に誘導する。猫が中に入って、踏み板を踏むと扉が閉まるという仕組みだ。
無事、捕獲に成功すると自治体の人が車で迎えに来てくれる。手術後は入院して、翌朝帰ってくる手はずとなっている。
手術当日、母猫は姿をくらました。これが野生の勘というものか。
代わりと言ってはなんだが、子猫と仲良くしている少しブサイクな猫を捕まえる。
子猫たちもすんなり捕獲器に入ってくれた。
車が到着する。
引き渡す際、「もし、このまま帰ってこなかったらどうしよう……」という、とてつもない不安に襲われた。
仕事が手につかない。一日中、上の空だった。
「オス3匹、メス1匹でした。よかったですね。これで不幸な命は増えません」
私の心配をよそに、翌朝、全員が帰ってきた。捕獲器ではなく、ペットキャリーの中で大人しくしている。
「おかえり」
いつものごはんの上におやつをトッピングする。大好きな液状スティックタイプのおやつだ。
無事に帰ってきてくれてよかった。
木枯らしが吹きつける中、もう元の場所に戻すことはできなかった。
「家の中に入れてあげよう」
だが、今住んでいる家はペット禁止。猫5匹を飼える家は探しても見つからなかった。
そこで、祖父が貸し出して空き家になっていた借家を猫に貸し出すことにした。
家賃はもちろん、猫割引で無料だ。
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