複雑な素直

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「んっ……ん」  次に氷が舌に滑ってきた。強い冷感にピクリと身体が反応したが、角ばった氷はすぐに溶け始めた。二人の口を行き来する氷塊は瞬く間に形をなくしていった。気持ちいい。生き返るようだ。冷たい唾液すら心地よかった。 「はっ……」  氷が全て溶けたタイミングで、微かな水音と一緒に唇が離された。ぼやけた視界には神谷の顔がいっぱいに映っていた。 「……もう一個いる?」  問われて無言で頷いた。 「ふふっ、可愛い……」 「んっ……んぅっ、ん」  冷たくも熱い口づけが再び落とされた。その温度差に口の粘膜が痺れを起こした。氷が溶ける感触と、蠢く舌が気持ちいい。完全に溶けた氷は液体となり、喉を下っていった。身体の中から冷やされていく。 「ふっ……んぅ……っ」  既に氷はなくなったが、唇は合わさったままだ。神谷は咥内をねっとりと掻き混ぜながら、一司の身体へと優しく覆い被さってきた。密着する身体が熱い。それでもこの安心感は何だろう。濃厚さを増す口づけに一司は身を任せた。舌が根元からじっとりと吸われ、舌裏までも摩擦を施された。欲を燻った。 (病人に……なんて事しやがる……)  文句を言ってやりたい。だったら身体を思い切り突き飛ばせばいい。それが出来ないのは、きっと熱のせいだ。一司は力ない腕を神谷の首へと回した。口渡しされた氷のように、心も身体も全部、溶けそうだった。 (もう、ダメだ……)  身体がもたない。息苦しさに身動ぎすると、唾音が鳴った。唇が離れたのだ。  瞳に映る神谷は慈しむような眼差しを送っていた。そんな風に見つめられたら心のセーブが効かない。睡魔が押し寄せるなか、一司は熱い吐息とともに素直な想いを無意識に伝えた。 「……会いた……かった……」  口にした直後、完全に意識は完全に途切れた――。
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