やさしさに触れた時

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「大槻さんじゃない! わざわざこっちまで顔を出してくれたの?」  一司の姿にいち早く気付いた牧野が駆け寄ってきた。 「忙しい中すみません。この前、お借りしたジャージと運動靴を返しにきました。ありがとうございました」  紙袋を手渡した。ジャージはクリーニング済みだ。靴もちゃんと洗った。借りた時以上に綺麗にしろ。父のポリシーのままに従ったのだ。 「あら、綺麗にしてもらっちゃって……何だか逆に申し訳ないわ」 「お気になさらず。あとこれ、皆さんでどうぞ」  次は有名和菓子店の菓子折を手渡した。 「やだ、大槻さんって、結構気を使うタイプなのね!」 「ただのお礼です」 「ここのお菓子美味しいのよね。みんな喜ぶわ……ありがとう」 「いえ……」  頭を軽く下げてから一司はプレイルームを見渡した。  職員とボール遊びをする子供。鬼ごっこをして、はしゃぐ子供。隅っこの方で絵を描く子もいた。皆、各々、楽しんでいるようだ。しかし、あの少年が見当たらない。小学校から帰ってきていてもおかしくない時間帯だ。一司は尋ねることにした。 「そういえば、あいつ……怜ですけど、あれから風邪とかひきませんでした?」 「ああ、怜くんね……」  牧野の表情が曇った。嫌な予感が過った。 「っ……もしかして、体調崩したりしましたか!?」  罪悪感が襲った。大人の自分でも体調を崩したのだ。一司は牧野に詰め寄った。 「そうじゃなくて……昨日、怜くんの保護が解除になったのよ」 「――え?」  またかと、一司は疑問を露呈した。
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