やさしさに触れた時

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 前回は少し行き過ぎた躾でセンターも緊急性はないとの判断だった。母親も感情的になりすぎたと虐待を否定し、反省した。しかし、今回は怜自ら助けを求めたと聞いている。  確かにセンターは一時的保護を目的としている。その保護期間の間、親と面会し、家庭環境も調査する。子供本人からも話を聞く。全てを総合的に見て、虐待再発の可能性がないと判断した場合、保護は解除となる。この辺は実に難しい判断となる。プライバシーなどが大きく関係しているからだ。法律上、行政が踏み込めるラインが存在するのだ。過度な調査は下手をすれば訴えられる場合もある。とはいえ、一司は違和感を拭えずにいた。 「なんかおかしくないですか……短期間で保護したり解除したり、それの繰り返しですよ」  率直に尋ねた。過去に似たケースはいくつもある。結果、虐待ではなかったという事例もあった。牧野はそうね、と頷くと調査結果をセンター側の目線で明かした。 「結局、虐待の証拠も掴めないままだったの。当の怜くんも帰りたいって言っていたから……」 「帰りたいって……話が違ってきません?」  それだったら怜のSOSは何だったのか。牧野も同じ疑問を抱いているのだろう。 「牧野さんは……解除は反対されたのですか?」  上層部が決めた事務的な決定事項ではなく、彼女の意見が聞きたかった。 「……怜くんね、お母さんと二人暮らしなの。ママの事が大好きっていつも言っていたわ」  想像した通りの生活環境だ。答えをはぐらかしたように聞こえたが、一司は理解した。否定しないイコール、異を唱えたのだと。それならギリギリまで踏み込もう。 「……失礼な質問になりますけど、センターはちゃんと調査をしたのですか?」 「調査はしたけど、証拠が掴めないならどうしようもないのよ」 「でも、怜は自分でここに来ましたよね。それが答えになりませんか? 身体が小さいことも問題でしょう?」  引かずに返した。疑念が晴れないのだ。
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