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(なんだよ……なんでだよ)
子供のくせに一丁前だ。どうしてそこまで人を思いやることができる。素直になれる。瞳の奥が熱を持った。鼻先がツンとした。怜の優しさが今まで以上に一司の胸に迫った。
「昨日、センターから家に戻るまで、もう一回広場に行ったら、サッカーゴールの近くに落ちてたんだ。半分くらい土の中に入ってたから、最初はわかんなかったけど!」
身振り手振りを交えて、怜は見つかった時の様子を語った。その姿に一司の気持ちは溢れた。抑えきれるはずがなかった。
「……ありがとな、怜」
それは感謝の言葉として自然と表れた。
「へへっ……どういたしまして」
怜は照れ臭そうにはにかんだ。一司もつられて目を細めたが……。
「……怜、お前家に戻ったっていうけど、大丈夫か?」
身を案じた。虐待に対する疑惑が残っているからだ。牧野も同じ想いを抱いている。ここで聞き出すしかない。一司は怜の両肩を掴んだ。
「だっ、大丈夫だよ。ママだって優しいし……」
明らかに声のトーンが下がった。おかしい。腰を屈めて怜と視線を合わしたが、大きな瞳はすぐに逸らされてしまった。
「怜……?」
「センターの人達はママが悪いみたいに言ってたけど……」
小さな唇が何かを訴えようとしている。一司は静かに続きを待った。
「悪いのは……あいつで……」
「……あいつ?」
誰だ。一司の表情が一気に険しくなった。それがいけなかったのだろう。怜はハッとした途端、首を大きく横に振った。
「な、なんでもない!」
そしていつものように無邪気に笑って見せた。
「怜……何か隠してないか?」
不自然な態度を追求した。それでも怜は口を割らなかった。
「何も隠してないって……それより一司さん。俺サッカーもっと上手くなりたい。だから今度教えてほしい!」
「いいけど……今はそんな話じゃ」
「じゃあ、またここに会いに来るよ。ここに来たら一司さんに会えるんだよね?」
ないと言う前に縋られた。一司は首を縦に振った。
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