心が叫ぶ

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 翌日の金曜日。  一司はとにかく仕事に打ち込んだ。自覚した恋を消し去る勢いで書類を捌き、得意の高速タイピングでキーボードを叩いた。  ひと段落ついたところで、センターに電話を入れた。怜の件を牧野に伝えようとしたのだが会議中で繋がらなかった。もどかしい。こうなったら直接話したほうがいい。一司は昼休憩を利用してセンターへと足を運ぶことを決めた。午前の終業のベルが鳴ったのと同時に、貴重品だけを携えて局を出た。  休憩時間は一時間。午後の業務までに戻らないといけない。頭の中で時間を逆算しながら一司は大通りを走るタクシーを捕まえた。 「保健福祉局の大槻です。牧野さんをお願いします」  センターに到着するなり、受付は通さずに職員事務所へと直行した。対応したのは牧野と同じ児童福祉司の若い女性だ。面識はあった。一司を見るなり女性は頭を小さく下げた。 「すみません。牧野さんは今、席を外してまして……」  ここに来ても捕まらないのか。それでは困る。一司は尋ねた。 「どこにいます? 急ぎなんです」  席を外していると彼女は言った。それはセンター内にいることを意味している。 「プレイルームにいます。でも今は、警察の方とお話されていますので……」 「……警察?」  眉をピクリと跳ね上げた。警察がセンターに赴く理由は限られている。その殆どは虐待に関する事件の発生だ。 「何かあったのですか?」 「……えっと」  言い淀んだ女性だったが、周りを窺うように視線を配ると「実は……」と囁き声を発した。あまり言える内容ではないらしい。一司は彼女へと歩み寄って耳を澄ませた。 「大槻さんは担当の一人でもありますし、後日、局のほうにも報告がいくと思うのでお話しますけど……」  いい話ではなさそうだ。嫌な予感は的中した。 「生島怜くんが、昨夜遅くに病院に運ばれたらしくて……」 「え……?」  ドクンと、大きな鼓動が全身を揺らした。 (誰が……病院だって……?)  今、聞いたことは本当なのか。固まる一司に彼女は状況を明かした。  
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