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「頭を怪我して、今、危険な状態って……大槻さんっ⁉」
最後の言葉を聞く前に、一司は床を蹴るようにして駆け出した。
(嘘だろ……だって昨日!)
会ったじゃないかと。走る中で怜の笑顔を思い返す。
一緒にサッカーがしたいと甘え、一司の腰に抱き付いてきた。小さな腕の感触を覚えている。
(何が、何があった⁉)
心臓が爆発しそうだった。今にも縺れそうな足を必死に動かして、プレイルームを目指した。
「――牧野さんっ!」
両開きの扉を勢いよく開け放って叫んだ。
「大槻さんじゃない……どうしたの⁉」
突然の登場に牧野は驚いた様子を見せていた。彼女の他にはスーツを着た男性が二人いた。警察関係者だろう。
一人は白髪交じりの年配の男だった。もう一人は一司と同じくらいの年代だろう。二人は大声をあげてやってきた一司に向かい、怪訝な視線を送っていた。
「牧野さん、怜が病院に運ばれたってどういうことですかっ⁉」
そんな彼等には目もくれず、一司は牧野に詰め寄ると、両肩を強く揺さ振った。
「ちょ、ちょっと、大槻さん……落ち着いて!」
「俺、昨日の夕方、怜に会ったんです……なくなったと思ってたタイピンを届けに来てくれたんです!」
酷く動揺しながらも伝えた。
「昨日って……!」
牧野の表情が変わったところで、年配の男が割って入ってきた。
「今の話を詳しく聞かせてください。あなた、生島怜くんに会ったのですか?」
無感情な物言いが気に障った。一司は食ってかかるように声を荒げた。
「詳しくも何も、さっき言っただろうが! 怜が来たんだよ……俺の為に探してくれたタイピンを持って!」
「その時、怜くんはどんな様子でしたか。何か気になることはありましたか?」
「気になることって……怜は『あいつが、悪い』って言って……」
混乱を抑えながら様子を語った。脳裏には小さな唇で『あいつ』の存在を訴えようとした怜の姿が浮かんでいた。
「それは誰のことですか。何か他に言っていましたか? 会いに来た時間も教えてください」
「それがわかんねぇから、牧野さんに聞きにきたんだよ!」
事務的な質問に思わずカッとなった。そんな一司を牧野はあえて冷静な態度で宥めた。
「大槻さん、落ち着いて。とりあえず怜くんは無事よ……今は絶対安静だけど」
「……絶対安静って」
鈍器で殴られたような衝撃を受けて、足元がフラついた。
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