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牧野は警察の二人に、一司は保健福祉局の人間で、センターの担当であると紹介したあと、怜の身に何があったのかを明かした。
「怪我の原因は、お母さんの交際相手だって話だわ。まだ言い切れないけど……」
「じゃあ、あいつって言うのは……」
語られた正体に一司は息を呑んだ。
「その人が、怜くんの言う人と一致するかどうかは、まだわからないけど……」
「そんなの一致するに決まっているじゃないですか……。だって怜は、自分でここに来た時、殺されるって言っていたくらいですよ!」
怜は『あいつ』の存在にずっと怯えていたのだ。とうとう耐え切れなくなった時にSOSを発信したのだ。しかし、見過ごされてしまった。
これは大問題だ。防ごうと思えば防げた事故だ。調査そのものが、いかに杜撰かを物語っていた。
牧野の所為じゃない。彼女は保護解除に異を唱えていた。これはセンターの調査班の責任だ。それを取り仕切るのは田辺をはじめとする上層部だ。
感情を露にする一司に年配の警察官は淡々と告げる。
「とにかくその交際相手が見つからない限り、今は何とも出来ないんですよ。姿を眩ましていてね……」
何を悠長なことを言っている。しかもどこか他人事だ。一司の怒りが爆発した。
「だったら、とっとと見つけてみせろよ! 警察だろうがっ!」
掴みかかる勢いで怒鳴り声をあげた。
「やめなさい、大槻さん!」
取り乱す一司に向かって、牧野も負けじと大声を張り上げた。これ以上はいけない。彼女はいつになく真剣な瞳をしていた。
「っ……」
拳を握り締めながら一司は一歩下がった。
年配の警官は呆れ顔を見せたあと、部下を連れてプレイルームをあとにした。交際相手の行方を調査しに戻るとの事だった。広い空間には一司と牧野だけが残った。
「今はとにかく怜くんが回復する事だけを願い信じましょう。ねっ?」
明るく振舞う牧野だが、一司は一点を見つめたまま動かない。この現実をどう受け止めていいのか混乱していた。
「私はこれから怜くんがいる病院に行ってくるわね。センターとして確認したいこともあるの」
牧野が急いで駆け出した。ここでやっと一司は我に返った。
「……俺も一緒に連れて行って下さい!」
走る彼女を追い掛けた。
怜の傍に行きたかった。行かなければならない。強くそう思った。
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