心が叫ぶ

6/16
前へ
/267ページ
次へ
「こちらも最善を尽くします」  小さな生命を守ろうとする使命感だろう。看護師が強い口調で言い切ったところで集中治療室へと続く扉が開いた。出てきたのは髪を明るく染めた小柄で若い女性だった。 「……生島さん!」  牧野が呼んだ。女性は怜の母親だった。 「あなたは、センターの……!」  牧野の姿を見た途端、母親は表情を強張らせた。 「お母さん……怜くんはどうですか⁉」 「あ、あの、私……ち、違うんです……」  歩み寄る牧野から逃げるようして母親はゆっくりと後退った。おかしい。挙動不審な行動に一司は目尻を吊り上げた。 「どうしてこんなことになったのですか……怜くん、お家に帰れるって、ママと一緒にいられるって喜んでいたのよ。一体何があったの……⁉」  牧野も気が動転しているのだろう。険しい語気で問い詰めた。  自責の念が渦巻いているようにも見えた。牧野は責任感の強い人間だ。センターの子供たちを我が子のように可愛がり、大事に思っている。もっと緊急性を訴えればよかった。自分で自分を許せない。牧野の悲痛な叫びから、ひしひしと伝わった。それは一司も同じだった。 「わ、私は何も知らない……何も悪くないっ!!」  母親は急に取り乱した。甲高い声を上げながら両耳を塞いだのだ。どこまで無責任で自分勝手なのか。気が付くと一司は動いていた。大股で彼女へと詰め寄り胸倉を掴んだ。 「てめぇ……母親だろうが! なんで守ってやれなかったんだ……ふざけんなっ!!」 「――ひっ」  恐怖を感じたのだろう。怜の母親は小さな悲鳴を発した。 「お、大槻さん……乱暴だけはやめて!」  牧野の制止も「静かにしてください」という看護師の注意も一司は無視した。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1530人が本棚に入れています
本棚に追加