心が叫ぶ

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 酷い仕打ちを受けながらも怜は口を閉ざしてきた。母親が男を好きだと知っているからだ。母を想う子の気持ちがあった。例え、こんな腐った母親でも、怜は大好きなのだ。 「……し、知らない」  追及されても彼女は白を切り、居場所を割らなかった。一司の中で何かがプツリと切れた。 「おい、てめぇ……女だからって調子に乗るなよ」  もう限界だった。拳を大きく振り上げた。 「やめて、大槻さん……同じ暴力よ!」 「――――っ!」   頬にヒットする直前、牧野の声に一司の動きはピタリと止まった。同時に胸倉を掴んでいた手を離した。母親はその場に力無く座り込んだ。 (俺は……今、何をしようとした……?)  自らの手を見つめた。抑えがきかないほど小刻みに震えていた。静寂が訪れたところで廊下から忙しない足音が響いた。 「いました……生島怜くんのお母さんです!」  やって来たのは警察の面々だった。プレイルームで会った年配の警官もいた。彼は床へと座る怜の母親へと告げた。 「男の居場所がわかりましたよ。署までご同行、お願いします」 「っ……嘘、だって彼は……」  怜の母親は青い顔をして狼狽えた。 「お母さん……最初から全部隠していましたね。男は諦めて全部自供しましたよ。怜くんへの暴力も認めましたよ」 「あ……ああ」  顔面を両手で覆う彼女を、若い女性警察官が無理やりに立たせた。  立ち去る母親の顔は絶望と悲しみに打ち拉がれ、憔悴しきっていた。その様子を一司は茫然と見送る事しか出来なかった。  
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