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「少し様子が変よ……何かあった?」
問われてゆっくりと振り返った。優しい眼差しが注がれた。
(ああ、色々あったよ……)
心はぐちゃぐちゃだ。それでも神谷という光に触れて安心している。声に出さない代わりに、涙で赤くなった瞳で彼を見つめ返した。
「かずちゃん、いったいどうしたの……っん!」
心配を露にする神谷の胸元を引き寄せて、一司は自ら唇を重ねた。
突然の行動に神谷も驚いたのだろう。肩をピクリと揺らしたが、すぐに応えてくれた。一司の腰に腕を回して身体の密着を深めてきた。
唇と唇がめり込むように合わさったあと、一司は口を開いた。舌をせがんだのだ。煽られたのだろう。神谷が舌を突き入れてきた。口の中はあっという間に唾液で満たされた。
「んっ……んん」
甘い呻きを発しながら、一司も唇を積極的に動かす。くちゃくちゃと唾を混ぜながら、舌を根元から擦り合って貪った。上顎も喉奥も、全部が溶けていく。
滑りを持った厭らしい摩擦は二人の熱を昂らせた。まるで口のセックスだ。それほどまでに激しく欲に塗れた口づけだった。
「珍しいわね……かずちゃんがこんなにも積極的に求めるなんて」
唾液の糸を引いて唇はゆっくりと離れた。熱い息を吐きながら、神谷は嬉しそうに目を細めた。
「……はっ、神谷……っ」
酸素を求めながら、切なげに名前を呼んだ。蕩けた目で送る一司に神谷は雄の声を放った。
「そんな目、すんなよ。もう……我慢できねぇよ」
「っ……!」
剥き出しの欲情に一司はわなないた。同時に強く願ってしまった。このまま、この男に抱かれたいと。
(……流されんな)
願望を絶って顔を背けた。それでも神谷はやめなかった。
「かずちゃん……凄く好きだ。全部好きだよ……早く欲しくてどうにかなっちまう」
胸に迫る告白だった。聞きたくない。一司は決断に従って神谷の胸を両手で押した。震える喉を堪えた。
「……神谷、こんな関係は、もう終わらせようぜ」
「……え?」
神谷の瞳が大きく揺れた。
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