愛を知る

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 神谷と関係を終わらせた二日後。  とうとう日曜日がやってきた。万里子と子供たち、四人揃って一緒に出掛ける日だ。行き先はリクエスト通り、水族館だ。 「行きたくねぇな……」  着替え終えて独りごちた。かなり滅入っていた。こんな状態で子供と接することが出来るのか……不安だった。  怜の容態は変わらずだ。昨夜遅くに、牧野から連絡が入ったのだ。そこに神谷のことだ。晴れない気持ちのまま、一司は身支度を整える。  約束の時間は十時。現地集合となっている。万里子とのやり取りは全て両親に任せてあった。今日のプランも母から聞いた。それでいい。別れた嫁と連絡なんて取り合うものじゃない。万里子と会うのもこれっきりだ。 「まあ、こんなもんだろ……」  部屋の鏡で服装をチェックした。  シンプルな黒の長袖Tシャツに、グレーのパーカーを羽織った。ボトムは秋らしいダークブラウン色のクロップドパンツを選んだ。  髪の毛の乱れも確認する。寝ぐせは治まったようだ。夏から美容室に行けていない。伸びを感じて前髪を摘まんだ。もともと柔らかい毛質で、伸びると厄介なのだ。 (髪、いつも撫でてくれたな……)  神谷の手の感触を思い出した。この半年、共に過ごした時間が忘れられない。  金曜の夜。マンションを出てから暫く街を彷徨った。どこに行くわけでもなく、神谷のことを思いながら、ひたすら歩いた。選択は間違えていなかった。未練がましい恋心を言い聞かせた。帰宅したのは深夜だった。そのまま部屋へと直行し、着替えもせずにベッドへと身を投げた。 「いつまでも引き摺るなよ、俺……」  鏡に映る自分へと声をかけた。とにかく今は神谷のことを考えるなとひとりでに頷いた。今日は子供たちの為に時間を使おう。あとは――。 (万里子にもちゃんと言わねぇと……)  実はひとつ、決めたことがあった。  腕時計へと視線を落とした。時刻は午前九時二十分。いい時間だ。一司は意を決して家を出た。
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