愛を知る

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「――パパ、見て! ペンギンさんがいっぱいいる!」  陽菜のはしゃぎ声が上がった。ペンギンのゾーンに到着したのだ。 「陽菜、あそこにペンギンの赤ちゃんがいるぞ」  ガラスの向こうに設置された人工岩の上へと一司は指を指した。 「ほんと⁉ あーん……でも、全然見えない」  どうやら陽菜の目線の位置からは見えないようだ。しかもこの混雑だ。特にペンギンは子供に人気らしく、たくさんの家族連れで賑わっていた。水槽の前は人で埋め尽くされていた。それでも陽菜は見ようと必死だった。その場で何度もジャンプしていた。しょうがない。一司は小さな身体を抱き上げた。 「わぁっ、高い!」 「これなら見えるだろ?」 「うん! でも、パパ……どれが赤ちゃんなの?」 「茶色いやつがいるだろ?」 「うそぉ……もっと小さいと思ったのに。それに、なんだか変な色をしてるのね」  想像していたのと違ったのだろう。陽菜は眉を顰めた。 「そう言うなって」  子供のくせに辛口だ。思わず笑った。 「……パパって、やっぱり格好いいわ」  ここで陽菜が円らな瞳で一司の顔を間近に見つめてきた。 「ど、どうした、いきなり……」  娘の言葉は照れを呼んだ。 「だって、格好いいんだもん。イケメンって言うんでしょ?」 「……お前なぁ、どこで覚えたんだそんな言葉」  さすが女子だ。四歳とはいえ言葉が達者だ。苦笑していると隣から小さな笑い声が聞こえた。万里子だった。彼女は言った。 「陽菜ったらね、幼稚園で見るどの子のパパより、陽菜のパパが一番格好いいって、最近よく言うの」 「……なんだそれ」  ただ恥ずかしい。陽菜を抱っこしたままペンギンの方へと視線を逃がした時だ。誰かがパーカーの裾を引っ張った。 「パパ、陽菜だけずるい。俺も抱っこして!」  智史だった。
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