愛を知る

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「わかった。陽菜が見終わってからな」  頷いて息子の要求を受け入れると、またしても万里子が笑った。 「……なんだよ」  何がおかしいと、不貞腐れた表情で返した。 「あ……ごめんなさい」  久々に聞いた万里子の『ごめんなさい』だった。結婚生活の中で、何度自分勝手な感情で彼女に謝らせてきただろう。一司の胸が軋んだ。 「……別に、謝る必要はねぇだろ」 「そ、そうね……ごめんなさい……あっ」  また口にしてしまったと、万里子は口元に手を添えた。 「もういいって……何も怒ってねぇよ」  顔を背けた。  植えついた恐怖が、まだ離れていないのだろう。無意識に出た謝罪が何よりの証拠だ。一司は改めて知った。万里子に行ってきた暴力は、何をしてもどう償っても消えないのだと。 「ねぇ、パパ! 早く変わってよぉ」  智史がごねだした。一司は陽菜をゆっくり降ろしてから、智史の身体を抱き上げた。さすが男の子だ。骨格がしっかりしている。 「わーい! ペンギンさーん、お元気ですかぁ!」  しかも落ち着きがない。智史は両手を大きく振って水槽の中のペンギンへと声をかけた。 「お、おい……あんまり動くなって。お前は陽菜と違って重いんだ!」 「パパ、ママ見て! ペンギンがご飯を食べてるよ!」 (聞いちゃいねぇ……)  話を全く聞かないのも男子の特徴だ。一司は呆れながらも腕の中の息子をしっかりと支えた。
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