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「本当ね。美味しそうに食べているわね」
万里子が陽菜を抱っこして、優しく微笑んだ。
傍ら見れば、今の四人は仲睦まじい幸せそうな家族だ。しかし、実際は違う。一司のDVが原因で離婚し、別々の道を歩んでいるのだ。
(家族か……)
ふと見渡した。子供の声があちこちから聞こえる。小さな我が子を慈しむように見つめる両親の姿ある。家族愛に溢れた空間だった。
瞳に映る光景とは裏腹に、一司の脳裏に別れの夜が鮮明に駆けた。
『かずちゃん……凄く好きだ。全部好きだよ……』
声が響いた。
あれはまさに愛の告白だった。一司の悪い部分を神谷はもちろん知っている。それすら彼は愛おしいと言ったのだ。それは一司も同じだ。神谷の全部が好きだ。
そうか、これが愛だ。人それぞれ、捉え方は違うだろうが、一司が知った愛は神谷そのものだった。
(どこまでも愚かだな、俺は……)
皮肉なものだった。家族の愛に満ちたこの場所で神谷を思っているのだ。
「……一司さん?」
「っ……ああ、何?」
万里子の声で我に返った。
「智史と陽菜がお腹空いたって言っていて……そろそろお昼にしませんか?」
もうそんな時間かと智史を降ろして腕時計を覗いた。時刻は十二時を過ぎた頃だった。
「早く行こうよ! 俺、オムライスが食べたい!」
「わたしはお子様ランチ!」
二人は空腹を訴えながら食べたいものをリクエストする。ついさっきまで、ペンギンと叫んで大はしゃぎだったくせに食欲となるとこれだ。一司は呆れ笑いを浮かべながらも子供たちに言った。
「じゃあそうだな……パパはカレーでも食おうかな」と。
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