愛を知る

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 昼食後はペンギンの行進やイルカショーを鑑賞した。  土産物ショップにも寄った。ここで一司は、智史にはイルカのぬいぐるみと幼児用の海の生き物図鑑。陽菜にはペンギンのぬいぐるみと貝殻のブレスレットを買った。一緒に選んだのだ。二人は父親からのプレゼントを飛んで喜んだ。  買い物を終えたあとは、商業施設内にある有料のプレイルームへと向かった。室内遊園地のような作りとなっている。  巨大ボールプールで遊ぶ智史と陽菜を見守りながら、一司と万里子は近くベンチに座り、カフェでテイクアウトしたコーヒーを飲んでいた。二人の間に会話といった会話はない。妙な沈黙が流れるなか、万里子が徐に口を開いた。 「一司さん……今日はこちらの我儘を聞いて下さって、本当にありがとうございました」 「別に……礼を言われるほどじゃねーよ」  頭を下げる彼女に素っ気無く返した 「いいえ、だって突然の申し出を受けて下さったもの……感謝しかありません」 「……でも、正直驚いた。お前は俺なんかに会いたくなかっただろ?」  思ったままを伝えると、万里子は小さく頷いた。 「ええ……怖かった」 「……だよな」  それもそうだ。野暮なことを聞いた。ばつが悪そうに一司も頷いた。 「でも……今日、ここに来れて本当に良かったです」  万里子は嬉しげに目を細めながら、二人の子供へと視線を送った。 「前回の面会から智史と陽菜は、一司さんの話ばかりをして……。パパが優しかったとか、実はパパは面白いんだよとか……信じられないような事ばかり言うんです」 「お前も正直に言うようになったな……」  苦笑した。いつも自分に怯えていた万里子が自分の意見をハッキリと伝えている。別れてからの生活がそうさせたのだろう。彼女は以前よりも輝いて見えた。
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