愛を知る

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「でも、今日の一司さんを見てわかりました。こういう事だったのねって……」  優しい眼差しは次に一司へと向けられた。 「わかった……?」  何がと瞳を瞬いた。 「言葉にするのは難しいけど、一司さんの本当の姿を見た……そんな気がしました」 「……なんだそれ」  今一つ意味が掴めないまま、コーヒーを一口飲んだ。  万里子は続ける。 「……私たちは終わってしまったけれど、あなたはいつまで経っても智史と陽菜の父親です。それは、変わりません」  一司はただ黙って耳を傾けた。 「……実はひとつ、お伝えしておこうと思いまして」  その言葉に一司は片眉をピクリと動かして万里子の方へと顔を向けた。彼女は言い淀んだ様子を見せたあと、こう告げた。 「……実は、再婚する事になりました」 「……え?」  瞠目した。ショックとかではない。ただ吃驚したのだ。 「両親が片親だけでは色々大変だろうと言って……父の知り合いが紹介してくれた弁護士の方と夏頃から交際しています。来年の頭には籍を入れる予定です」 「……そっか。よかったな」  元妻に『おめでとう』と送るのも違和感がある。一司は静かに微笑みながら新たな人生を祝った。万里子は少し気まずそうに俯いた。気が引けるのかもしれない。 (俺はもう必要ないな……)  結論は早かった。元気に遊ぶ智史と陽菜の姿を瞳に焼き付けた。 「だったら、面会は今日限りでやめておいたほうがいいかもな……」  子供たちを思ってのことだった。  新しい父親が出来るのだ。自分の存在はいずれ邪魔になる。一司は身を引いた。あとは両親だ。孫との面会が万里子の再婚でどうなるか、また話し合わないといけない。 (親不孝だな……)  申し訳ない気持ちが込み上げた。
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