愛を知る

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「一司さん……私たちは今日を最後に会う事はないでしょうけど、あの子達が一司さんに会いたいと願った時は、会ってあげて下さい。お願いします……」  またしても頭を下げられた。苦しみを与えてきた相手にどうしてそんな事が出来る。一司は声を振り絞った。 「お前はいいのか? こんな最低で、クズみたいな人間に、大切な子供を会わせていいのかよ?」 「……一司さんがどんな人間であれ、あの子達にとっては父親です」  下を向く一司へと万里子は真摯に訴えた。 「……ははっ……はははっ!」  思わず笑ってしまった。  全く、嫌になる。万里子ではない。一司は自分が嫌になったのだ。  酷い仕打ちをした男に、よくここまで心を許してくれる。それが胸に沁みた。情けなくなった。腰を上げた一司は、そのまま両手と両膝を床へとつき、万里子に向かった深々と頭を下げた。 「か、一司さん、何をして……やめてくださいっ」  突然の土下座に慌てたのだろう。万里子の狼狽えた声が聞こえた。  やっと言える。いや、言わなければならなかった。一司は地に額を擦り付けた。 「万里子、すまない……俺は、お前に最低な事をしてきた。本当に……すまない……っ!」  これこそが一番言いたかった言葉だ。  今更、謝って何になる。遅すぎる。どこまでも最低な人間だと一司は自分自身を酷く嫌悪した。土下座のひとつで許してもらおうとは思わない。償いはまだ、はじまったばかりなのだ。 「一司さん……顔を上げてください」  立ち上がった万里子が一司の傍へとしゃがんだ。彼女の手がそっと肩に触れた。それでも一司は頭を下げ続けた。 「もう充分です……あなたの気持ちは、わかりました」  優しい声に促されて顔を上げると、万里子の瞳には涙が浮かんでいた。
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