愛を知る

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「万里子、ごめん……本当にごめんっ……こんな言葉では足りないほど、俺は最低なことをした……っ!」  泣かないでくれ。一司は何度も謝った。 「もういいの……その言葉だけで救われました」  慈悲深い彼女に次は一司の視界が滲んだ。 「一司さん……これから私たちの歩む道は違うけれど、お互い幸せになりましょうね……必ず」  万里子の頬に一筋の涙が伝った。 (幸せ? 俺が……?)  そんなの許されるわけない。お前に幸せなど贅沢だ――。  誰かが一司に向かって囁いているように聞こえた。 「……俺に、幸せになる権利なんて……ない」 「え……?」 「いや……」  何でもないと言ってから、万里子としっかり視線を交えた。 「……こんな事、俺が言えた義理じゃねぇけど、幸せにしてもらえよ。俺なんかと過ごした事なんて忘れるぐらいに……」 「一司さん……」  もう夫婦ではないけれど、家族には戻れないけれど、二人はこの時、はじめて心から微笑み合った。少しの間、見つめ合ったところで智史と陽菜の声がした。   「パパー、こっちに来てー!」 「一緒に遊んでー!」  一司に向かって二人は両手を大きく振っていた。 「わかった。今すぐ行く!」  立ち上がって手を振り返した。 (ああ、なんだよこの感情は……)  二人の我が子が心の底から可愛いと思った。それはもう、切ないぐらいに――。
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