許されるのならば

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 別れの夜から三週間が経過した。  十月も終わりに近づき、季節は秋から冬へと変わり始める準備をしていた。  怜の虐待事件は大きな騒ぎとなり、ニュースにも取り上げられた。  一司も警察から聴取を受けた。タイピンを届けに来た日のことを子細に聞かれたのだ。  田辺を含む、センター上層部への責任は大きく、局のトップと緊急会議が行われた。今回のことを受けて、組織改革や連携の取り方を一から見直すそうだ。次期人事で幹部の顔ぶれも一新されるという。  怜に暴力を振るった男は暴行罪として逮捕され、母親も保護責任者遺棄の罪に問われた。  怜の容体はというと、集中治療室から個室へと移されたが、意識はまだ戻っていない。いつ目覚めるかはわからないとの事だ。  医師の説明によると、脳へのダメージが原因で障害が残るだろうとの事だった。言語障害や麻痺が濃厚だと語っていた。詳しい検査は今後行う予定だが、軽くはないとの見解だ。  一司は一日も早く怜が目覚め、少しでも後遺症が軽いことを願った。毎日、昼休みを利用して見舞いに訪れた。面会時間が午後六時までと決まっているからだ。仕事を終えてからでは間に合わないというわけだ。 「怜、早く一緒にサッカーしような……」  規則正しいモニターの音が響くなか、一司は眠る怜の耳元で語りかけた。もちろん返事はない。 「元気になったら一緒にサッカーボール買いに行こうぜ。特別にプレゼントしてやるよ」  それでも一司は話し掛けることをやめない。担当の看護師曰く、語ることが大切で、脳にいい刺激を与えるのだとか。  耳は不思議なもので、意識はなくともちゃんと声をキャッチしているらしい。臨終前であっても声だけは届いているそうだ。
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