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広い空間には誰もいなかった。
今は遊びの時間ではないらしい。閑散としていた。例えるなら、学校の体育館が静まり返っているような光景だ。子供がいないだけで、こんなにも様変わりするのか。一司は心寂しさすら感じた。
「大槻さん……この前も言ったけど、怜くんの事は、あなたの所為じゃないわ」
二人しかいない空間に牧野の声が響いた。一司は黙って拳をキュッと握った。
「怜くんも絶対にそんな風に思ってない。だって怜くん、大槻さんのことが大好きだもの」
牧野は続ける。
「怜くんだけじゃない。この前、一緒に遊んでくれた子供たちも大槻さんのことが大好きよ。もちろん私も……」
耳を塞ぎたくなるのを一司は我慢した。代わりに握り締める手の力を更に強めた。
「大槻さんと初めて出会った時、どうしてこんなにイライラしているのかしらって思っていたの。口も悪いし態度も褒められたものじゃなかった」
一司の第一印象を語りながら、牧野はふふっと笑った。
「でもね、子供たちと遊ぶ姿を見てわかったの。この人は、ちゃんと人を思いやる心を持っているって……」
「っ……」
やめてくれと、眉間に皺が入るほど瞳を瞑った。
感謝も好意も受け取ってはいけないからだ。この先ずっと、それは変わらない。全ての原因は自分なのだ。
「……はっ……ははっ、はははっ!」
悲しい現実に笑った。
「……大槻さん?」
牧野が首を傾げた。突然、笑い出した一司を不思議がったのだろう。
「……大好きって、牧野さん。あんたは俺がどんな人間か何も知らないから、そんな事を言えるんだ……」
唇を震わせながら吐き出した。もう止まらない。一司は自分の過ちを牧野へとぶつけた。
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