許されるのならば

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「……牧野さん、実は俺……バツイチなんですよ」 「あら、そうだったの。でも、最近では離婚もそう珍しい話でもないし……」 「その離婚の原因が、元妻へのDVだったって聞いても、そう言えますか?」  透かさず返した。当惑したのだろう。牧野の瞳がほんの一瞬だけ揺れた。 「俺が、病院で……怜の母親に手を挙げようとした時、牧野さん言いましたよね。そんな事をしたら『同じ暴力』だって」 「ええ、言ったわね」 「それってその通りで……俺には怜の母親もその恋人も、咎める権利も資格も、何もないって改めて痛感したんです」  この手で人を傷付けた。この口が人の心を踏み躙った。  こんな身体は壊してしまいたい。自己破壊の衝動に駆られながら、一司は悲痛な声で告白した。 「俺は……牧野さんが思ってるほど、いい奴じゃありません。今まで沢山の人を、平気で傷つけてきたし、傷付けても罪悪感すらなかった……寧ろ、それでいいと思ってた!」  堰を切ったかのよう溢れ出した。爆発した感情は一司の心を容赦なく切り刻んでいく。 「実の子供にすら愛情を注げなかった。逆に疎ましかった……そんな俺が人に愛されて好かれる理由なんてない……人を愛する資格もないっ!」  次第に大きくなった声がプレイルームに虚しく響き渡った。  光に触れてはいけない。それでも心は光を求める。神谷を求めてしまう。一司の手は自然とネクタイへと向かった。輝くタイピンへと触れた。神谷の存在を確かめるように。
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