許されるのならば

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「……俺は、見栄っ張りで虚勢を張る、嫌な男なんです! 非力な存在に平気で暴力を振るえる、最低なクソ野郎なんです……」  過去はどうやっても消せない。想いを全て激白したあと肩を落とした。そんな一司に牧野は尋ねた。 「……そう。それで大槻さんはどうしたいの?」 「え…?」 「だから、どうしたいの? 苦しいのでしょう? じゃあ、どうやって大槻さんはこれから自分自身と向き合って生きていきたいの?」 「どうしたいもなにも……ただ償うしか……」  懺悔以外の道はないのだ。一司は頭一つ分低い牧野へと戸惑いを露にした。 「そうね……確かに償う事も大事よね。でも、このままじゃ一生苦しい自分に大槻さんは捕らわれたままよ」  強い口調だった。 「……それで……いいんです」  自嘲気味に笑うと、牧野は穏やかな表情で人生についてを語った。 「……私はね、人は誰だって大なり小なり過ちを犯すだろうし、そういう生き物だと思っているのよ。その過ちを認めて自己を見つめ直すのは、とても勇気がいるわ。だって誰も、自分の嫌な部分なんて見たくもないし、大人になればなるほど柔軟性が無くなって、つい素直になれない……そう思わない?」  問われても答えようがない。またしても俯いた一司の片手を牧野は手に取った。そして両手で握り締めてきた。少し皺の入った手は、とてもあたたかかった。 「過去に何があったにせよ、大槻さんはちゃんと逃げずに見つめてるじゃない。不器用ながらも、ちゃんと人を愛そうとしてるじゃない。怜くんの事だってそうでしょ?」 「……怜の…事?」  喉に何かが引っ掛かったかのように、上手く声が出せなかった。何故なら、一司の頬には幾筋もの涙が伝っていたからだ。止めようとしても駄目だった。瞳からは次々と涙が溢れた。 「怜くんのことで、大槻さんがあんなにも必死になったのは、心から心配だったからでしょう? 幸せになってほしかったからでしょう? あなたにもちゃんと人を愛せる心があるのよ。資格なんていらないわ……」  握った一司の手を牧野は小さな子をあやすようにしてゴシゴシと撫でた。長年の家事や育児で使い古した掌の表面は少しザラついていた。母の手だった。
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