許されるのならば

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 涙を流す一司に彼女は言った。 「あとは自分の心を大切にして、もう少し素直になりましょうね。大丈夫、あなたなら生まれ変われる。愛し愛される事に自信を持ってね。過去の事を思うなら、これからは後悔しないように生きないと……それもある意味償いのひとつよ」 「っ……!」  その言葉に一司は瞳をハッと瞬いた。涙の粒が飛んだ。思い出したのだ。神谷が口にした亡き母の言葉を――。    自分らしく後悔しないように、恥じない人生を生きなさい。見栄やプライドも必要ない、人も自分の心も誠実に愛しながら……と。  母親の遺言を純粋に守り生きる神谷は、溢れんばかりの愛を一司にくれていた。誠実で真っ直ぐな愛情を注いでくれていた。  それなのに光に飛び込む事を恐れた一司は、汚したくないからと理由づけて、また人を傷つけてしまった。それが今、はっきりとわかってしまった。 「牧野さ……俺っ……俺」  しゃくり上げる。顔は涙でぐちゃぐちゃだった。 「なーに、その顔。せっかくの男前が台無しよ」  豪快に笑ったあと、牧野は一司のネクタイへと視線を注いいだ。 「……そのタイピン、とっても大切なんでしょう? あなたがそんなになるくらいに、大切な人から貰ったのね」  牧野は何もかもわかっている様子だった。 「っ……うっ……!」  息が出来ないほど一司は啼き咽た。 「……怜くんも、大槻さんの宝物だってわかっていたから絶対に見つけたかったのね」 「っ……ひっ、う……ううっ!」  怜のことを話されたらもう無理だ。一司はみっともないほど、大きな嗚咽をこぼした。 「大槻さん、約束してね。怜くんが目覚めた時は、そんな苦しそうな顔はやめて、笑顔を見せてあげてね……」 「っ……はい、はい……っ」  頷いた。脳裏に怜の眩しい笑顔が過った。 (ああ、いいのか……こんな俺でも……)  人を愛しても、愛されてもいいのか。光に飛び込んでもいいのだろうか。神谷の綺麗な心に触れることを許してもらえるだろうか。まだ、間に合うだろうか。 (神谷……神谷……っ)  心で叫んで泣き続けた。そんな一司の手を牧野はずっと優しく握り、微笑んでいた。
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