※雨の中の二人

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「言っただろ…俺は汚い人間だ。お前の傍にいることなんて出来ない。人に愛される資格も、愛する資格もない……それでも俺は!」  ここまで口にしてからブレーキがかかった。 「いいよ、かずちゃん……言ってくれ」  言い惑う一司に神谷は優しい口調で促した。 (ああ……)  言ってしまう。止まりそうにない。心が素直になりたいと叫んでいた。 「っ……それでも俺は、傍にいたいんだ。お前が、神谷の事が……好きだからだ!」  抑え込んできた想いをやっと口にした。 「かずちゃん……」  神谷の瞳が大きく揺れた。 「どうしてもお前を汚したくなかった。母親の言う通りに、真っ直ぐ素直に、清々しくも綺麗に生きるお前を、俺は汚したくなかった……っ」  弱々しい口調で明かすと、神谷の両手が一司の肩に置かれた。その拍子に、彼が手にしていた弁当箱の入った袋が地面へと落下した。 「それでも、この気持ちが止まらないんだよ。どうしようもないくらいにお前を求めて、苦しいくらいに……っ」  間近でかち合う視線のなか、心の悲鳴を訴えた。 「……かずちゃん」  肩を軽く揺さ振られた。 「神谷、こんな俺でも傍にいたいって言ったら、お前は……許してくれるか?」   雨か涙なのか、わからないほど顔は濡れていた。声も震えていた。それでも一司は、しゃくり泣きながら想いをぶつける。 「俺の償いは始まったばかりで、まだまだ綺麗な世界に行くことなんて出来ないけど……っ」 「かずちゃん!」  次は強めに揺さ振られた。 「お前の、生き方を汚してしまうかもしれないけど……!」 「だから、かずちゃん!」  一司を落ち着かせようとしているのか、神谷の語気が強まった。 「それでも、お前と一緒に幸せになりたいって言っ――⁉」  言い終わる前に、身体は神谷の大きな腕によって抱き締められた。 「もう、かずちゃんは……さっきから何一人でベラベラ喋ってるんだよ」 「っ……」  抱擁が強まった。雨で冷えた身体がじんわりと熱を持った。待ち焦がれていた、心安らぐあの温もりと匂いだった。
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