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胃も満たされ、あとは入浴を済まして眠るだけだ。しかし、甘かった。いざ寝室に向かうと一司は再び神谷に抱き潰された。その結果が、この腰痛だ。尻の奥は未だにヒリヒリする。
「……もう、無理。ついていけない」
重い嘆息と一緒に泣き言を漏らした。神谷の化け物級の性欲に身体がついていけないのだ。
想い通じ合ったことは嬉しい。セックスも嫌ではなかった。寧ろ、好きな相手だからこそ気持ちがよかった。だが、男同士の行為があんなにも激しいとは聞いていない。精の全てを搾り取る勢いだ。このままでは生命の源が枯れてしまう。一司は大きく項垂れ、顔面を両手で覆った。
「……何が無理なの大槻さん?」
「っ……」
ビクリと肩を揺らした。隣の席に座る一ノ瀬が声をかけてきたのだ。
「さっきから腰が痛そうね。捻ったの?」
「……問題ないです。大丈夫です」
どうか何も聞かないで欲しい。一司は無表情を貫いた。
「嘘はダメよ。私、腰痛持ちだからわかるの。湿布持ってるから使って」
一ノ瀬が引き出しから湿布の入ったナイロン製の袋を取り出した。
「どうも……」
礼を述べて善意を受け取った。
「激しい運動でもしたの? あまり無理しない方がいいわよ。三十代の身体は正直だからね」
「ははは……」
もう渇いた笑いしか出ない。この三日間、恋人の男とセックスした所為でなど、口が裂けても言えない。
「大槻さん、今日のお昼も生島怜くんに会いに行くの?」
「はい、行ってきます」
頷いたタイミングでスマートフォンが机の上で震えた。牧野からの着信だった。一司は通話をタップした。
『――大槻さん!』
出たのと同時に大きな声が鼓膜を突き抜けた。
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