※ありがとう

8/11

1525人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ
***  夜十時半。残業を終えて向かった先は神谷のところだった。  一司は部屋に入るなり、怜との出会いやセンターのこと、どんな仕事に携わってきたかを一気に語った。聞いて欲しかったのだ。怜の存在を知って欲しかったのだ。話途中、神谷は涙ぐみながら、怜の回復を心から喜んでいた。 「……その怜くんって子、かずちゃんの事が大好きなのね。早く一緒に遊べるといいわね」  餃子を並べた皿を手に神谷がキッチンから戻ってきた。もちろん手作りだ。一司は早速、ひとつ口にした。皮がパリッとして美味い。ニンニクに代わりに生姜が効いていた。これは翌日の口臭を気にした、神谷なりの気遣いだ。 「でも、まだ入院は続くみたいだし、リハビリも始まるだろうしな……」  これからのこと考えた。  退院後、おそらく怜は児童養護施設に入所するだろう。まだ決定ではないが、牧野も一ノ瀬も同じ見解を示していた。 「大丈夫よ……怜くんには明るい未来が待っているわ」  慰めようとしたのだろう。俯く一司の肩を神谷はそっと抱き寄せた。 「お、おい……そういうのいいから」  恥ずかしさが駆けて身を捩った。 「今更なに言ってんのよ。お休みの間、もーっと凄いこといっぱいしたじゃない」  ちゅっと、蟀谷(こめかみ)に口づけを落とされた。 「もう、やめろって……!」  頭の中で、次々と激しい行為が甦ってくる。一司は頬を赤くして顔を背けた。 「いいじゃない、傍にいさせて。幸せを噛み締めてるの……」  密着が深まった。一司の身体は神谷の胸の中へと包まれた。 「っ……いい加減、暑苦しいから退いてくれ。先に餃子が食いたい」  照れ隠しに食欲をアピールした。 「ラブラブ恋人同士なんだから、いいじゃないのよ」 「……ラブラブとかやめろ。虫唾が走る」  三十を過ぎた男には相応しくない言葉だ。 「どうしてよ。一哉さんのところは、結ちゃんといつもベッタリよ」  実の弟の話題に一司の気分は急降下した。神谷の胸を力強く押して、距離を取った。 「俺はな、一哉のことが死ぬほど大嫌いなんだ。その名前、一切口にするなよ」  ドスの効いた声で制した。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1525人が本棚に入れています
本棚に追加