この面子にちょっと待った

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 怜が退院した二日後。  仕事納めを無事に終えた一司は神谷のマンションへと急いだ。今夜は二人きりの忘年会だ。キムチ鍋を用意すると聞いている。 (そうだ、お父さんに連絡……)  街路樹が並ぶ、道幅の広い歩道で立ち止まった。トレンチコートからスマートフォンを取り出して今夜も友人の家に泊まるとだけメッセージを送った。  離婚から一年。父からの鍛えの日々は続いているが、以前ほど縛りは強くない。親として一司の変化を感じ取ったのだろう。プライベートにもあまり口を出さなくなったが、あえて連絡を入れるようにしている。一司なりの反省を込めた態度だ。  とはいえ、外泊が増えた息子の行動を不審がったのか、先日、母が突然尋ねてきた。 『もしかして、付き合っている方がいるの? どんなかた?』と。 しかも父の前でだ。案の定、父は厳しい顔で一司を見据えた。それもそうだ。DVが原因で出戻った息子だ。心配しかないのだろう。まだまだ信頼を取り戻していない証拠だった。 (どんな方ってなあ……)  端末をポケットにしまって歩き出した。 『はい! 俺の恋人はオネエ言葉を話す変態で、筋肉隆々の男です!』など言えるはずもなく、付き合っている人はいないとだけ告げて部屋へ逃げ込んだ。  嘘を吐いたことも苦しかったが、何より神谷の存在を否定した事が辛かった。いっそ全部告白して、交際を認めてもらえたらどんなに楽か。しかし、今の一司にそれは出来ない。  実は最近、神谷が一緒に住みたいと言い出している。だが、一司は首を縦に振らない。 (これからどうしたらいい……?)  神谷と歩くためにはどんな選択がベストだろうか。一司は白い吐息を漏らした。
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