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「――かずちゃん、お帰り。お疲れ様!」
貰った合鍵でリビングに入ると神谷が笑顔で出迎えた。
「……おう」
頷いてテーブルへと視線を送った。
鍋の準備は出来ていた。中央に大きな卓上鍋。皿の上にはたくさんの具材が並んでいた。白菜や長ネギ、ニラ。エノキタケに豆腐。海鮮類も豊富だった。エビやアサリに加えてプリプリの牡蠣もある。鍋だけじゃ味気ないと、温泉卵がのった山盛りのシーザーサラダに、大皿には出来立てほやほやの焼豚チャーハンが湯気を立てていた。美味そうだ。胃の虫が小さくなったところで……。
「おい、さすがに二人でこの量はねぇだろ。俺、こんなに食えねぇよ」
二人で食べるのには多すぎる。一司は呆れ顔を向けた。
「そ、そう? たくさん食べたいなって思ったら、あれもこれもって入れちゃたのよねぇ」
珍しい。いつもなら買い過ぎることなどしないはずだ。神谷は金銭感覚もしっかりしている。食費も毎回計算し無駄遣いはしない主義だ。
「残ったら明日食えばいいけど……いくらだった?」
コートを脱いでから財布を取り出した。こういうのはきっちりと払い合う。今までもそうしてきた。
「ああ、いいのよ。あとでみんなで分けるから」
「みんな?」
訝しんでネクタイを緩めた時だった。来客を知らせるインターホンが鳴り響いた。
「……もしかしてお前、誰か呼んでるのか?」
それならこの量も納得できる。だが、神谷は質問には答えずに玄関へとダッシュした。
(誰だ……?)
内容まではわからないが、閉じたリビングドアの向こうから声が聞こえる。
友達だろうか。自分たちに共通の知り合いはいないはずだ。一司が腕を組んだところで扉が開いた。
「おい、誰か来るなら最初から言え……よ」
言葉が止まる。神谷の後ろに立つ男の姿を目にした瞬間、心臓が止まるほどの衝撃を受けた。固まる一司に男は驚き声を上げた。
「兄さん……⁉」
現れたのは一哉だった。しかもその隣には……。
「一哉、どうしたの?」
橘結人もいた。
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