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「……帰る!」
長居は無用だ。一司はコートを手に取った。
「やだ、かずちゃん! そんな事言わないで。せっかく揃ったんだし、楽しく忘年会しましょうよぉ」
部屋を出ようとしたところで、神谷が後ろから抱き着いてくる。
「離せ! 揃った、じゃない。お前が揃えたんだろう。ふざけた真似しやがって……」
怒りが頂点に達した。身体を振り回して大きな腕から逃れようとした時だ。一哉が言った。
「いいじゃないですか、兄さん」
「は?」
何がいいのだ。一司は腕を組む弟へと睨みを飛ばした。
「せっかく神谷が用意してくれたんだ。俺たちは全然構わない。なあ、結?」
「か、一哉がそう言うのなら……」
同意を求められた結人は戸惑いを露にしながらも頷いた。
「冗談じゃねーぜ。お前らと一緒に鍋なんてつつけるかよ!」
「じゃあ、俺の方からお父さんに神谷との交際を勝手にバラしてもいいのですね?」
「っ、てめ……卑怯だぞ!」
憎たらしい。余裕の態度でいる一哉へと掴みかかろうとしたが、背後から回る神谷の腕に力が入った。結果、その場でジタバタと足踏みをするしかなかった。
「だったら帰らないで、ここにいて下さい。兄さんには聞きたい事が山ほどあるんです」
厭味なほど爽やかでいて輝く笑顔を向けられた。
「っぐ……!」
終わった。一番恐れていたことが起きてしまった。項垂れる一司に、後にいる神谷は囁いた。
「いいじゃない、あたしたちのラブラブっぷり、見せつけてやりましょうよ」
耳朶をちゅっと吸われた。そんな神谷の腹に、一司は無言の肘打ちを食らわした。
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