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「痛い! 折れるっ!」
「じゃあ愛してるって言って!」
「バカかお前は……っ!」
二人の押し問答が続くなか、一哉が口を開いた。
「交際に関しては何も言いませんけど、兄さんのしたことは、まだ全て許したわけじゃないですからね」
確認事項のように言い放たれた。さっきとは違って瞳には険しさがあった。
「っ……!」
その迫力に一司はグッと息を呑んだ。
「一哉……もうその話は、いいから」
重い雰囲気にしたくないのだろう。一哉の袖を小さく引っ張ったあと、結人は言った。
「神谷さんもお兄さんもよかったね。好きな人と結ばれて……」
「ありがと結ちゃん!」
二人は目を細めて笑い合った。
(なんで……)
傷付けた張本人に、そんな言葉をかけられる。一司の心は渦巻いた。本当はわかっている。謝る相手は、もう一人いる。しかしタイミングが掴めない。一哉の手前、プライドもあった。それが余計に邪魔をする。斜め前に座る結人をそっと盗み見た。
「ところで兄さん。いずれはお父さんとお母さんに神谷とのことを、ちゃんと報告するんでしょう?」
「……そんなの、言えるわけないだろ」
視線を一哉へと戻し、現時点では伝える意思はないと示した。
「俺は打ち明けたほうがいいと思いますよ」
「簡単に言うなよ。付き合ってまだ二か月だぞ」
(お前と違って、俺は両親からの信頼はゼロなんだよ……)
喉まで出かかった言葉は飲み込んだ。
渋る兄に一哉はハッキリと告げる。
「付き合っている期間は関係ない。神谷も兄さんとずっと一緒にいたいって思っているんだろ?」
「そりゃそうよ。早く一緒に住みたいのに、かずちゃんったら全然その気になってくれなくて、困ってるの」
大袈裟な溜息と一緒に神谷は不満を漏らした。
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