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「話せば両親もわかってくれる。俺と結だってそうだ。最初は確かに不安だが、きっと……」
「いい加減、うるせぇよ! これは俺と神谷の問題だ。お前がいちいち口出しすんな!」
苛立った声を上げて一哉の意見を遮った。部屋がシンと静まり返った。鍋の煮る音だけがやけに大きく聞こえた。
(……しまった)
悪い癖だ。感情が走ってしまった。一司は自分にうんざりして嘆息した。
「かずちゃん、一哉さんはあたし達の事を心配して言ってくれてるんだから……」
神谷が諭した。そんな事は一司もわかっている。ただ、どうしても一哉にだけは素直になれない。長年の確執がそうさせるのだろう。
「……兄さんのペースでいいとは思うけど、あまり長く隠す事はお勧め出来ない。それだけは言っておく」
それでも一哉は弟として兄を思いやる気持ちを持っていた。
「……わかってる。その事はちゃんと考える。もう、食おうぜ」
この話は終いだ。視線を合わせずぶっきらぼうに呟くと、一哉の小さく笑う声がした。
「そうね! ちょうどお鍋もいい感じに出来上がったし、食べましょう!」
神谷が蓋を開けた。白い湯気が立ちあがるとともに、辛味の効いたキムチの匂いが部屋に充満した。
「神谷さん、サラダを取り分けておくね」
手伝いを名乗りた結人が四人分の取り皿にサラダを盛りはじめた。
「ありがとう結ちゃん。一哉さん、ちょっと珍しい日本酒が手に入ったの。今夜のために用意したのよ」
「いいな、貰おうか」
グラスを取りにキッチンスペースに向かう神谷に一哉は満足げに頷いた。
「おい、聞いてねーぞ! 俺にも飲ませろ」
一司は立ち上がって神谷のあとを追い掛けた。
「だって、かずちゃん、日本酒はすぐに酔っちゃうじゃない」
「いいんだよ。一哉なんかに先に飲ませるな。もったいない」
「なんかとは失礼だな。結はどうする? もらうか?」
「じゃあ、少しだけ……」
食べ始めの頃はぎこちない空気がまだ漂っていたが、アルコールが入るにつれて神谷と一哉を中心に会話は和んだ。この奇妙な面子での鍋パーティーは深夜まで続いた。
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