ずっと一緒にいたい

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 年末年始の休暇も終わり、仕事始めの一月四日を迎えた。  しかし一司にとっては神谷不足の長期休暇となった。サービス業である彼とほとんど休みが合わなかったのだ。公務員の一司と違って神谷は大晦日まで仕事に追われていた。唯一の休日は元旦のみ。翌日の二日からは初売りセールといって年始から多忙を極めていた。  しかし、残念なことばかりではない。  三が日の最終日。怜が入所する児童養護施設を訪れた。外部の人間が施設に入るには色々申請が必要だが、福祉局に勤める一司はそれをしなくて済む。職員証さえ見せればいつだって面会は可能だ。  一司の訪問を怜は喜び、施設での暮らしを楽しそうに語った。職員も優しく、ご飯もお菓子も美味しいと言う。友達も出来たそうだ。しかし帰り際、怜は寂しさを漏らした。 『もっ、と……一司、さんと一緒に、いたい』 たどたどしい口調でポツリと落とされた声は、涙を誘った。  慣れない環境でいきなりの集団生活だ。母親とも会えない。寂しいに決まっている。一司はそんな怜を抱きしめて『また、すぐに会いに来る』と再会を約束した。自分の存在が少しでも、この少年の心の拠り所になるようにと願った。 「――マスター、ソルティ・ドッグ作ってくれ」  新年初出勤を終えた一司は久し振りに『idea(イデア)』に顔を出していた。神谷の帰りが遅いと聞いていたからだ。本社幹部らと新年会に参加しているのだとか。本当なら彼の部屋でゆっくり寛ぎたいところだが今夜はお預けだ。その結果、選んだ場所がお気に入りのバーというわけだ。マスターは一司の来店を喜び二人は会話に花を咲かせた。 「お待たせしました。ソルティ・ドッグです」  淡黄色のアルコールが入ったグラスが静かに置かれた。ウォッカとグレープフルーツジュースでステアされており、グラスの縁には食塩がついている。苦みとしょっぱさが絶妙だ。 「サンキュ」  一司はそれを一口飲んだあとスマートフォンをチェックした。未読のメッセージがあった。神谷からだった。実はここに来る前、一人で飲みに行くとだけ伝えていた。おそらくその返信だろう。開いたトークにはこうあった。 『早く帰るのよ! バーは駄目! マスターも駄目!』と。
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