ずっと一緒にいたい

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「はあ?」  意味が分からない。行動を束縛されるのは好きじゃない。一司は既読無視に徹した。それでも端末は震え続ける。神谷がトークを連投しているのだ。 「まったく……」  嘆息を漏らしながら、ふと店内を見渡すと全て空席だった。アルバイト店員もいつの間にか姿を消している。ここで一司は閉店間近だと気が付いた。時間を忘れて話し込んでしまったようだ。 「やべっ……マスターごめん。もう店閉めるよな」 「大丈夫ですよ。大槻さんに会うのも久し振りですし、ゆっくりしていってください」  席を立とうとする一司をマスターは引き止めた。 「じゃあ、こいつを飲んでから帰るよ」  善意に甘えて再びソルティ・ドッグを味わうように口にしたが……。 「そうだ、マスター! あれからどうなった?」  ある事を思い出して、カウンターの向こうでグラスを磨く彼へと投げかけた。 「あれから……とは?」 「ほら、前に好きな奴がいるって言ってたじゃん。そいつと何か進展とかあったか?」 「……進展と言われましてもねぇ。改めて失恋した、とでも言いましょうか?」  グラスを片しながら彼は小さく笑った。 「もしかして振られたのか⁉ なんだよそいつ……!」  見た事も会った事もない人物に一司は怒りを覚えた。  マスターには好きな相手と幸せになって欲しい。それ故に出た感情だった。しかし、当の本人は恋心に終止符を打ったのだろう。今の気持ちを淡々と告げた。 「もういいですけどね。その人、新しい恋人が出来てとても幸せそうですし、身を引くのも大事ですからね」 「せっかく応援したのに、簡単に諦めやがって……」  好きなら奪い取れと言いたいとろこだが、やめておいた。マスター自身がそう決めたのだ。だったら何も言うまいと。 「……そんなことはないですよ。気持ちは溢れています」  一司が空になったグラスを置いた時だった。マスターが真剣な声で言った。彼の瞳は一司をしっかりと捉えていた。 「……え?」  その眼差しに熱を感じて、心音が打った。
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