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「なるほど。秋からですか……予想通りですね」
思い当たる節でもあるのだろう。マスターは顎に片手を添えて頷いた。
「だから違う! 別に付き合ってなんか……」
苦し紛れに否定を続けたが、マスターは通用しないようだ。
「今更隠しても無駄ですよ。あなたはいつも嬉しそうに神谷さんの話ばかりしていましたよ」
「嘘だ、デタラメ言うな!」
「嘘じゃないですよ。大好きが溢れていましたよ」
「っ……!」
顔から湯気が出るほど赤くなった。一司は口をパクパクとさせて駄々洩れてきた感情を恥じた。
「今日、久し振りに大槻さんにお会いして、とても幸せそうに見えました。これは上手くいったなって直感したんです。くっつくのは時間の問題とは思っていましたけどね」
マスターが肩を揺らしてクツクツと笑った。
これはもう白状するしかない。
「……クソッ、俺ってそんなにわかりやすいのか?」
「そうですね。とてもわかりやすいですね」
「うるせぇ」
見事に肯定された一司はそっぽを向いた。
「大丈夫です。二人の関係は他言しません……でも」
ニコリと微笑んだマスターだったが、突然、声のトーンが下がった。
「でも、何だよ?」
続きを話すように催促すると彼は伏せ目がちに言った。
「……大槻さんが男もいけると最初からわかっていたら、もっと早くに行動を起こすべきでしたね」
「どういう意味だ?」
全く解せない。
「あなたは本当に鈍感だ……」
呆れたように溜息を吐いたマスターは首を傾げる一司をジッと見つめた。視線がかち合った。彼の瞳は息を呑むほど熱が孕んでいた。
「っ、マスター?」
微かに震える声で呼んだ時だった。店の扉が大きな音を立てて勢いよく開け放たれた。
「……かずちゃんっ!」
神谷だった。電話を終えてから十分ほどしか経っていない。彼は酷く息せき切っていた。
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