ずっと一緒にいたい

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「ま、待て……落ち着け!」  そんな彼の身体に一司は後ろから抱き付いて動きを阻止した。今にも殴りかかりそうな勢いだったからだ。このままではマスターが危ない。流血事件だけは避けたかった。 「マスター、遅くまで悪かった。神谷、帰るぞ!」  全身の力を使って大きな躯体を引っ張った。体勢が悪かったのか、神谷の足がグラついた。 「ちょっと、かずちゃん! まだマスターには話が……っ!」 「いいから帰るぞ……もう解決済みだ!」  マスターの恋心に応えるつもりはない。彼も想いを振り返らないと言っている。これ以上、話す必要はない。 「クソ……」  少し冷静さを取り戻したのだろう。舌を打ちながら素直に従った神谷は一司の肩を抱き寄せながら店を出た。  バーを後にした二人が向かった先は神谷のマンションだ。扉を開けるや否や、一司は玄関の壁に抑えつけられ、神谷から激しい口付けを受けた。 「っ、んんっ……ぅん」  苦しいと喉奥で唸っても、神谷の唇が執拗に追いかけて来る。息をも許さない動きからは怒りを感じた。口内は瞬く間に唾液(まみ)れとなり、息遣いと一緒に淫らな唾音が鳴った。 (ダメだ……苦しいっ)  脳が眩み出した。呼吸が欲しい。一司は顔を背けようとしたが、大きな片手で顎をしっかりと掴まれてしまった。唇はより一層、深く重なった。唾液の分泌が止まらない。口の中に収まり切らなくなったそれは、口端からねっとりと溢れて一司の喉まで伝った。 (もう、無理……)  限界がきた。一司はとうとう膝の力を抜いた。 「――っ、んぁ……ん」  小さく啼いて、身体が崩れたところで逞しい腕が腰に回った。乱暴でいて欲情を爆発させた口づけからやっと逃れられた。ワナワナと震える唇で一司は酸素を必死に吸い込んだ。
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