ずっと一緒にいたい

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「かずちゃん、なんでマスターにキスされてんだよ。クソ……っ!」  神谷の怒りは収まらないようだ。彼は一司の両頬を鷲掴むと、悔しさを露呈した瞳で射貫いてきた。 「キ、キスって言っても、ちょっと触れただけで、マスターも子供騙しとか言ってたじゃねぇか……そんなに怒るなよ」  それでいいじゃないかと、一司は開き直った。 「何、言ってんだよ。怒るにきまってんだろ……自分の恋人が目の前で他の男にキスされてんだぞ!」  怒り心頭のようだ。間近でぶつけられた感情に一司は眉を顰めると、神谷の肩を押しやってリビングへと向かった。一旦、落ち着こうと思ったのだ。それでも神谷は凄い剣幕で一司の後を追った。 「だから言っただろ……マスターには気をつけろって!」  後から肩をグイと掴まれた。今の言い方だと、神谷はマスターの気持ちに気付いていたというわけだ。 「お前、いつからマスターの気持ち知ってたんだ?」  振り返って尋ねた。 「初めてバーに行った時からに決まってるだろ!」 「え……マジかよ」  即座に返ってきた答えにポカンと口を開けた。マスターはそんなにも前から自分のことを恋愛対象で見ていたのかと……。 「マジもなにも、かずちゃん鈍過ぎ。あんな()で見られてたら普通気付くって!」 「わかるわけねぇだろ。マスターがゲイだったのも今日始めて知ったんだぜ」  馬鹿にされた気がして思わずムッとした。 「違う、あの男はバイだ。本当にかずちゃんは情けないくらい鈍感だ!」  またしても鈍い奴扱いに、一司の神経は逆立っていく。 「うるせぇな。キスの一つや二つでガタガタ言うなよ。いちいち嫉妬してくんなよ……鬱陶しいっ!」  苛立ちに負けて口にした瞬間、神谷の顔色がサッと変わった。冷えた怒りに満ちていた。
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