※出会いが教えてくれたこと

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「はい、お弁当! 忘れ物はない?」 「おう、サンキュ」  革靴に足を突っ込んだところで手弁当を渡された。泊まった翌日、神谷は必ず愛情たっぷりの弁当を作ってくれる。 「かずちゃん、今夜は来る? あたし、早く帰れる予定なの。美味しいごはん、いっぱい作ってあげる。何がいい?」 「じゃあ、肉じゃが。前、食べたやつ美味かったから……っ⁉」  そう言ってドアノブに手を置いた時だ。腰を抱き寄せられて、口付けを受けた。 「……おい、朝っぱらから何してんだよ」 「だって、いってらっしゃいのキスは必要でしょう?」  鼻先をちょんとぶつけられてから、もう一度、唇が重なった。 (ああ、もう……)  時間も場所も気にせずに、いつでもどこでも触れてくる。小さな文句を心で吐きながらも、一司は瞼を閉じて口付けの動きに応えた。少しの間、お互いの唇を味わったあと、神谷は言った。 「そうだわ……今度、あたしにも怜くんに会わせてね」 「えっ?」 「だって、かずちゃんの心にそこまで響いた子なんでしょ? それにあたし、子供って大好きなの」  瞳を瞬く一司に彼は優しく微笑んだ。 「……お前、デカイから怜の奴、会った瞬間に泣き出すかもしれねぇぞ?」  冗談を交えて返した。 「ご心配なく! 子供はちゃんと心が優しい人をわかって……っん」  拗ねた表情で唇を尖らせる神谷に、一司はリップ音を鳴らして口付けた。怜に会いたいという彼の気持ちが、心の底から嬉しかったからだ。
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