※出会いが教えてくれたこと

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「近い内に一緒に会いに行こうぜ。怜ならきっと喜ぶよ。それでさ、いつかお前の手料理腹いっぱい食わせてやってくれよ」 「ふふっ、りょーかい。任せておいて」  微笑み合った。怜はきっと喜ぶだろう。神谷の心の広さとあたたかさを感じ取って笑顔を弾かせるに違いない。三人で会う日を想像するだけで楽しそうだ。一司は笑みを溢した。そして……。 「……神谷、お前と出会えて、本当によかったよ」  想いが込みあげて、出会いの感謝を口にしていた。 「それは、あたしのほうよ……ありがと、かずちゃん」  神谷も目を細めて同じ気持ちを返した。二人はもう一度「いってらっしゃい」の口付けを交わした――。 「寒っ……」  正面エントランスの自動ドアを抜けると、朝の寒風が吹き付けた。身の凍る寒さに一司は肩を竦めながら通りへと出た。  時刻はちょうど午前八時。ラッシュの時間帯だ。街路樹が並ぶ歩道にはサラリーマンやOL、学生、多くの人が行き交っていた。神谷との関係が始まってから今日まで、この道を使って局に向かうのは何度目だろうか。愛しい人に見送られる朝は心地よい。神谷と生きる日々が幸せだ。 「さて、今日も頑張るか……」  流れに沿って歩くなか、小さく呟いて弁当の入った鞄を持ち直した。それだけで心はあたたまる。一司は改めて幸福を噛み締めた。以前の自分ならきっと知らない。知ろうともしなかった感情だ。この尊い気持ちは、たくさんの『出会い』で知ったのだ。  つくづく『出会い』というのは奇妙でもあり、奇跡だとも感じた。生き方や運命すら変える力もある。  振り返れば、全ては『最悪の出会い』で始まった。しかし、その『出会い』がなければ今の一司はない。    神谷が一司の人生を変えた。怜が人を想う素直さを教えてくれた。牧野は逃げそうになった心を導いてくれた。一ノ瀬は仕事に対する姿勢を叩き直してくれた。 (出会いも、なかなか捨てたもんじゃねぇな……)   感謝の気持ちとともに迎えた、ある冬の朝だった。  最悪の出会いは吉となるか(改稿版) 完  番外編についてや大切なお知らせもありますので、次ページのあとがきも是非お読みください。
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