番外編・ねがいごと

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「誰に書いてるのかしら……もしかして大槻さん?」 「へへ……あた、り」  言い当てられて、はにかんだ。そう、怜には一司がいる。それが寂しくない一番の理由だ。 「何を書いてるの?」  尋ねられた怜は途中まで書いた手紙を田島に見せた。 「えーっと、クリスマスプレゼントは、新しいサッカーボールがいい……あら、もう駄目になったの?」 「うん、だっ、て……もう、ボロボロ、なんだ」  施設に入所して少し経った頃。外出許可をもらって一司と一緒に出かけた日があった。駅前のショッピングモールへと向かった。その時に買ってもらったのが、共同部屋に置いてあるサッカーボールだ。施設の子どもたちと毎日蹴り合って、練習を積み重ねた。しかし、使い過ぎたせいなのか、最近空気の入りが悪い。施設長が言うには穴が開いているとの事だった。 (そういえば……あの人も元気かな)  ここで、ある人物が脳裏に浮かんだ。実は一司と出かけた際、もう一人、一緒にいたのだ。変わった喋り方をする、大きな男の人だった。見上げると、怜の首が痛くなるほど、高い身長だった。一司は彼を友人の神谷竜二と紹介した。  一司と同じくらい神谷も優しかった。初めて会った怜をぎゅうっと抱き締め「可愛い」を連呼していた。それからというものの、日程が合えば一司と一緒に神谷も面会に訪れるようになった。しかし、ここ三カ月ほど姿を見ていない。 (会いたいな……)  素直に思った。怜にはねがいごとがあった。一司と神谷と、もっとたくさん会えますようにといった、純粋な願いだ。
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