番外編・ねがいごと

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(一司さん、次はいつ来てくれるかな……)  どんなに忙しくても一司は週に一回、必ず会いに来てくれる。我儘はいけない。わかっていても、毎日会いたくなるほど怜は一司が好きだった。  口も目つきも悪いが根は優しい。何より格好いい。スーツがよく似合っている。笑うと嘘みたいに瞳が柔らかくなる。それが怜から見る大槻一司像だ。  実は一司は施設の女性職員たちからも人気が高い。  イケメン。涼しい瞳が魅力的。普段は素っ気無いが、子供には優しいところがいいなど、そういった声をよく聞く。一度、恋人がいないかどうか聞いて欲しいと頼まれた怜は、一司に彼女がいるかどうかを尋ねた。答えは濁されたが、彼は少し照れながら言った。 『俺には神谷がいるからいいんだよ』と。  怜は理解した。二人は親友というやつだ。男の友情は幼い自分にもわかる。女友達とは違った感情で、仲間みたいなものだ。 (でも、なんでそれが『いい』んだろ……?)  意味を探ってもわからない。小さな腕を組んだところで田島が言った。 「先生、今から来週のクリスマス会の準備をしてくるわね。お手紙出すなら、早めにね」 「はーい」  ニコリと笑って頷いたあと、怜は手紙の続きへと取り掛かった。  そう、来週はいよいよクリスマス会だ。大きなツリーが飾ってあるプレイルームで、施設に住む子供たち全員がプレゼントをもらえる日だ。  怜も九歳。サンタクロースを信じる年齢は終わった。ただ、どんなプレゼントでも構わないと言われれば、怜には迷わず選ぶものがある。 (本当はボールじゃなくて……)  寂しくないなんて、嘘だ。けれどそれを書くと一司を困らせてしまわないか。迷惑じゃないか。怜は迷いながら便箋の上で鉛筆を動かした。想いを込めて書き綴った。
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