番外編・ねがいごと

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*** 「――怜くんからのお手紙?」 「ああ、昨日実家に届いてた」  夜十時。仕事を終えた一司は、怜から届いた手紙を持って神谷のマンションへと訪れていた。  昨夜遅くに帰宅すると、母が置いたのか、ダイニングテーブルの上に一枚の封筒があった。  宛名には『大つき一司様』とあった。字を見て、誰から届いたのか、すぐにわかった。言うまでもなく差し出し人は怜だった。手紙を手にした一司は笑みを溢した。おそらくプレゼントの催促だ。    来週、施設で開催されるクリスマス会。  施設の子供たちは訳あって離れて暮らす両親や祖父母にプレゼントをお願いすることが出来るが、怜のように、親との接触が禁じられている子や、身寄りが無い子は日頃から親しい関係を結ぶ人へとお願いする。それすらいない子は、ボランティア募金から出資されると聞いていた。  二階の自室で手紙の封を切り、一司はすぐに中身を確認した。小学生男子らしい文字が並んでいる。 『一司さんへ。クリスマスプレゼントは新しいサッカーボールがいいな』と。  やっぱりそうかとひとりでに頷いたが、続く文面に一司はハッと目を見開いた。怜の切なる願いが綴られていたからだ。 「……怜くん何て書いてあったの?」  神谷がキッチンからお手製の唐揚げを盛った皿をテーブルの上に置いた。 「読むか?」 「あたしが読んでいいの?」 「神谷にも読んで欲しいって怜なら言いそうだし、お前の事も書いてある」 「えっ?」 瞳を瞬く彼に手紙を渡した 「……怜くん、やっぱり寂しいのかしら?」 真剣な面持ちで文字を目で追った神谷がポツリと呟いた。 「まあ、本当ならまだまだ甘えたい歳だろうしな」 グラスに注がれたビールを呑んだあと、唐揚げをひとつ口に放り込んだ。美味ししい。味がよく染み込んでいる。
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