番外編・ねがいごと

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「……それで、かずちゃんはどうするの?」 「どうするのって、そんなもん、今まで以上に会いに行ってやる事しか出来ねぇよ……」  悩まし気な溜息を漏らした。  サッカーボールのおねだりの続きにはこうあった。 『ムリなおねがいかもしれないけど、もっと一司さんと神谷さんに会いたい。一司さんみたいなパパがほしい』と。  遠慮を覗かせながらも、怜は本当の願いを伝えてきたのだ。嬉しい反面、一司の胸は痛いほど締め付けられた。 「怜くん、本当にかずちゃんの事が大好きなのね」  目を細める神谷に一司は複雑な表情を浮かべて尋ねた。 「なあ、仮にも俺は……世間からしたら元父親だろ?」 「そうね」  神谷がコクリ頷く。    離婚したとはいえそれは一生変わらない。智史と陽菜という、血を分けた子供が二人存在している。  元妻・万里子は年頭に再婚し、智史と陽菜には新たな父親が出来た。上手くいっているらしい。月一の面会で子供たちも言っていた。優しくていい人だと。しかし、新しい父親の話を口にした瞬間、二人して「しまった」と言った風に顔を見合わせていた。  ショックは受けなかった。寧ろ喜ばしいことだと一司は二人へと微笑んだ。新たな父親のもとで、幸せに暮らしている。自分が父親だったという事も、忘れてくれても構わないと、身を引く気持ちは常に持っていた。  ただ時々、後悔に似た念が襲うことも否めなかった。  父親だった頃、好き勝手に生きてきた挙句、我が子に何一つ愛情を与えてこなかったことを一司は悔いているのだ。
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