番外編・ねがいごと

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「じゃあ、あたしが怜くんのお母さんに立候補しちゃう。今度はワンピースでも着て会いに行こうかしらねぇ」 「やめろ。ただの変質者じゃねーか」  呆れながらも笑みを浮かべた。女装姿に怯える怜を想像するだけで、おかしい。一司は肩を揺らした。 「でも、素敵なことよね。あたしたち三人、血の繋がりがなくたって、ちゃんと心で繋がっていれば、その絆は、もう家族みたいなものなのよ。そう思わない?」 「……傍から見たら奇妙な家族かもしれねーけど……悪くないかもな」  しみじみと語る神谷の首に腕をまわして抱擁をせがんだ。 「あら、珍しい……かずちゃんが甘えてくるなんて」  ふふっと笑いながらも、神谷はしっかりと腕を回して一司の身体をぎゅうっと抱き返した。 「俺、これからもずっと、怜を愛して見守るよ。だから、神谷も一緒に付き合ってくれるか?」  大きな肩に顔を埋めて願った。   「……そんなの、当たり前じゃない。怜くんの幸せのお手伝い、これからも一緒にしていこう」 「ありがとう、神谷……」  見つめ合った。視線を搦めたまま二人は唇を重ねた。お互いの存在を強く確かめるように、口付けを深めていった。 ***  十二月二十五日。  施設の職員たちは朝からクリスマス会の準備に追われていた。怜を含めた、入所する子供たちも飾り付けを手伝いながら、パーティーの開演を今か今かと待ち侘びた。  そして迎えた午後六時。プレイルームに児童全員が班ごとにわかれて着席していた。各テーブルの上にはクリスマス仕様の食事が用意されていた。  フライドチキンにポテトフライ。サンドイッチやサラダ。怜の大好きなエブフライや、コーンポタージュもあった。何より一番の楽しみは食後のケーキだ。子供たちは皆、待ちきれないと言った様子でソワソワしてしている。勿論、怜も同じだ。クリスマスがこんなにも楽しみに思えたのは初めてだった。 「ねえ、怜くん。クリスマスプレゼント、何をお願いしたの?」  隣の席から声をかけられた。怜と同じ歳の男の子で、名前を拓望(たくみ)という。
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